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三ツ沢からフットボールを観測

2020シーズンから見る下平戦術【横浜FC】

2020シーズン振り返り

横浜FCにとってJ1の舞台は13年ぶり。

順位は全18チーム中15位と厳しいシーズンになったかもしれないが、復帰1年目であることやクラブの資金力を考えれば十分に健闘したと言える。

ベテランの活用、若手の積極起用、臆する事なく後ろからボールを繋ぐ"志(こころざし)の高いサッカー"により、クラブは間違いなく評価を上げたはずだ。

そんな昨季の躍進を支えた一人、下平監督が志向するサッカーについて今回は考えてみたい。

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もちろん今から説明する戦術はあくまで私個人の分析や見解にすぎない。これをきっかけに発見や議論が起きれば嬉しい。

戦術論やシステム論などには興味が無いというフリエサポも中にはいるかもしれない(事実私も戦術に詳しいこと=フットボール愛とは思っていない)

しかし今の横浜FCは、J1の中でも特に独特で面白い戦術を志向するチームを形成しているから、そこを抜きにして試合を見るのは惜しい。

自分の応援しているチームは「どんなサッカーをしたいのか」自分の好きなあの選手は「どんなプレーをしたいのか」

それを考えながら見ることは、より面白く試合を見る事に繋がるかもしれない。

皆さまに読んで頂くために、難しい言葉などは出来るだけ避けて説明するつもりですので、どうぞ読んでいって下さい。

 

2020シーズンから見る下平戦術 

途中から指揮を取る事になった2019シーズンに比較して、2020シーズンは下平監督の戦術がより色濃く出る形となった。

そして今オフの積極補強からも2021はさらにその色を強めることが予想される。

根幹を担う戦略を4つのポイントにまとめてみた。

  1. 早く奪う
  2. ビルドダウン(⇄ビルドアップ)
  3. ゾーンプレス&ショートカウンター
  4. ロングカウンター

 

1.早く奪う

まずはディフェンス編。

下平戦術における守備テーマは「早く奪う」ことにある。

高い位置から一気にゾーンプレスを掛けボールを奪う、いわゆる「ハイプレス」が近年のトレンドで、守備テーマとして「高い位置で奪いそのまま素早くゴールへ迫る」チームはJリーグにも多い。

今季の横浜FCでも同様に、ハイプレスを仕掛けるシーンは多く見られた。

しかし一方で、試合や局面によって自陣でブロックを敷き低い位置で固く守る時間もハイプレスと同じ割合で多く見られたのが特徴だ。

このようにしてディフェンスを使い分けている事から、下平戦術において「高い位置で奪う」ことや「低い位置で堅守する」ということは守備のメインテーマではない事が伺える。

そうして試合を見ていくうちに、それら複数の守備メソッドを使い分ける目的が「早く奪う」ことにあるのが見えてきた。

そもそも大前提として、ハイプレスなどの守備メソッドは手段であって目的では無い。クロップリバプールであれば、ハイプレスを仕掛ける目的は「高い位置で奪う」ことにあり、そのまま高い位置からのショートカウンターで得点の確率を上げる狙いがある。

横浜FCの場合、様々な守備メソッドは何よりも「早く奪う」目的を適える為にあり、そのままボールを保持することで相手の攻撃機会を極端に少なくする狙いがある。

相手がボールを取ってカウンターを積極的に狙ってくるようであれば全員が素早く降りてブロックを形成し低い位置でパスカットするなどしてシャットアウト。

相手が横浜FCの牽制によりカウンターをやめて自陣でパスを交換しながらゆっくり攻めてこようものなら、すかさずラインを押し上げて勢いを持ってハイプレスでボールを奪い取りにいく。

「自チームの得意な守備メソッドを貫く」(例:ゲーゲンプレス)「相手チームの得意な攻撃の形を封じる」(例:ロティーナ戦術)などに比較し、複雑で試合中の読みが外れると大崩れするのが課題だ。

しかし時間を追ってその完成度が高くなり、守備の安定感、ボール保持率も高くなっている事を考えれば、今後に大きく期待ができる。

2021年、新加入の選手たちがいかに早くこれらの守備メソッドを取り込み、チーム全体からズレる事なく試合中に実行できるかが鍵を握りそうだ。

高さのある高橋秀人を中盤の底で起用する事により、セカンドボールの回収率を高め「早く奪う」確率を上げる事や、新加入の若手選手にはスタミナに秀でた選手も多く守備時の上下運動によるスタミナ切れを無くす事ができれば、守備の質向上に期待ができるかもしれない。

 

2.ビルドダウン(⇄ビルドアップ)

次は組み立てについて。

下平戦術において最も個性を発揮し昨季Jリーグの注目を集めたのがポジショナル・プレーだろう。ボールを奪いカウンター、それに失敗すると無理に攻めずバックパスや横パスでとにかく保持、できるだけ保持。

高いボールポゼッションにより自軍の守備機会を減らしていく"ティキタカ"、かつてスペインのバルセロナが生んだ究極の戦術を下平監督は再現しようとしているのかもしれない。

しかし下平戦術の肝は、ビルドアップで相手を動かして崩すという気はあまり無いことにある。

ボールを"前に(アップ)"運びかけても、相手のプレッシャーを受けるとすぐに"バック"パス。GKまで躊躇なく下げると、ロングボールを蹴る素振りを見せながらもう一度ショートパスでビルドアップを試み、結局また下げるという展開を繰り返す。

下げて広げれば切り替えのハイプレスを回避できるし、自分たちが保持しているかぎり相手は攻撃する事もできないというわけだ。

その組み立てはビルドアップというよりビルドダウンと呼ぶほうがふさわしい。

高額な年棒を用意し強さと速さを持つ屈強なCBを獲得することは、資金力の乏しい横浜FCにとっては難しい。だからこそ守備時間の軽減により失点数を減少させようとしているのだ。

下平監督を筆頭にクラブはいま、横浜FCイズムを作り上げている最中であり、その最もコアな役割を担う戦術こそが"ビルドダウン"なのかもしれない。

来季もこのビルドダウンを持ってますますポジショナルプレーを推進するであろう。つなぎのミスからの失点は課題だが、2020年確かに手応えはあった。

資金力のないクラブは堅守速攻になりがちだが、このボールを徹底的に持つ新しい"弱者の戦略" がJ1に旋風を起こす可能性は十分にある。しかしどんな相手が来てもボールを持てなくてはこの戦術は意味がない。それだけに2021シーズンの1試合平均ボールポゼッションが75%オーバーしてくるようであれば、戦術の完成は近いかもしれない。

来季は一つ、ビルドアップ(ビルドダウン)の際に何本のパスが連続で通るのかを音ゲーのコンボ数のようにして楽しみながら観戦してみようと思う。

 

3.ゾーンプレス&ショートカウンター

最後は攻撃について。

今のスタイルに変更した2019シーズンより前から横浜FCの主な得点源はカウンターである。おそらくそれはクラブの色であり、来季以降も変わることはないはずだ。

下平監督はよく試合前やハーフタイムのインタビューで「細かくパスを回し相手を動かそう」とまるでパスで相手を崩しながら得点をするようなことを匂わせるが、あれは情報戦でしか無いだろう。

本当にそのような戦術を取るならこれまでの選手起用や2020のFW補強は全く理にかなわない。

明らかに裏への抜け出しやドリブル、スピードやポストプレーに長けた選手を起用・補強している事からも下平戦術における攻撃のテーマは「カウンター」で間違いない。

昨季もハイプレス(ゾーンプレス)により高い位置でボールを奪う事に成功すると、1〜2本と少ないパスで松浦や瀬古などがバイタルエリアにボールをリスクを取って入れていた。

おそらくボールを奪う位置によって

ショートカウンターでフィニッシュするか

・カウンターを匂わせながら前までボールを進めたのちにビルドダウンするのか

二つの選択肢がチームの決め事として定められているのだろう。

2020はこのショートカウンターにより何度もペナルティエリア内に侵入し良い形を作っていただけに、下平監督は手応えを感じているはずだ。(アタッカーの決定力不足により9割近いシュートはゴールとならなかったが・・・)

カウンターで力を発揮する選手をより一層補強してきたこともその証拠だろう。

渡邉千真やクレーベなど決定力のあるアタッカーがチャンスを物にすれば得点は自然と増えるはずだ。期待したい。

 

4.ロングカウンター 

 3で述べたように下平戦術における攻撃のテーマは「カウンター」である。

先に述べたショートカウンターはいわゆるハイプレスを志向するチームであれば定石であるしJでも多くのクラブが挑戦している。

一方で、下平監督が志向するロングカウンター は少し妙なものである。

ロングカウンター といえば、低い位置から攻撃を開始して少ないパスやドリブルで縦の推進力を持ってあっという間にエリアへ侵入しシュートまでいく攻撃(カウンター)であるが、横浜FCのロングカウンター も概ねこれに準ずるものではあるだろう。

しかし通常こういったロングカウンター は、リトリートして相手の攻撃がブロックの網にかかったところを起点にしてカウンターがスタートするのが定石であるのに対して、下平式ロングカウンター はそれとは少し異なる。(もちろんこの形からのロングカウンター も有るには有るが、低い位置で奪った時はそのままビルドダウンに繋げることが非常に多い)

2で述べた通り今の横浜FCは攻める気もなくとにかくボールを低い位置で回してくる。これは得点のない特に試合序盤の相手にはよく効いて、焦れた相手はラインを上げ前のめりになってボールを奪いにくるのだ。そうして食いつかせることで、その隙間を突いてあっという間にボールを前進させ、前線へと良い位置でボールを供給するとロングカウンター へ繋がり、松尾や斉藤のスピードを生かしたプレーから得点やチャンスを生むのだ。

自陣で失えば逆にショートカウンターに見舞われるリスクもあるが、プレスを外せばチャンスになる、独特であるが実に面白いやり方だと私は好感している。

下平監督含む補強部もこのやり方に手応えがあるのか今オフの補強でもこのロングカウンターの完成度を上げる策を打ってきた。

小川慶治朗やジャーメイン良などスピードを武器にするアタッカー陣を加え、彼らがこのロングカウンター をしっかり決めるような事になれば、松尾依存の攻撃事情はいくらか解決されるかもしれない。

しかしそれには、CBやボランチロングフィードも鍵を握りそうだ。

スカッとする超速ロングカウンターが何度も決まるシーズンになることへ期待したい。

 

2021シーズンはどうなる?

オフの積極補強もあり下平戦術も大詰めに入る。戦術が浸透していく事でチームは極端に状況が変わる可能性がある。

望ましい展開としては、下平戦術を抜け目無く選手が体現しそれがJ1で通用するというケース。そのための補強も進んでいるように見えるし、戦術が当たればJ1残留やトップ10も十分に狙うことができる。

一方で、望ましくない展開を見せる可能性も大いにある。それは、戦術が大詰めに入る事でチームはバランスを失うということだ。

良くも悪くもチームはこれまで説明してきた奇抜な下平戦術へ特化していく事になる。つまりその戦術自体が当たれば非常に強力なチームになる反面で、戦術が大外れすればそこからの転換が難しくなっていく事にもなる。

シーズンが始まり蓋を開けて見なければ分からないが、最悪の場合シーズン途中での監督交代も、それによる順位低迷も可能性はある。

チームとして狙い通りうまくやれているが勝てない(2020はこれに当たるが)のであれば選手を入れ替えたり補強したりで解決できるが、そもそも狙い通りのプレーができなかったり選手の個の力に頼るような事になってくれば戦術の崩壊とも言える。

しかし昨季まで推進してきた戦術に合う選手をオフに獲得できたと考えているため私自身は良い方向に展開すると考えている。(サポの贔屓目かもしれないが・・・)

2021シーズンも厳しいシーズンになるかもしれないが、一丸となってサポートして行きたい。


参考文献:

↓「ビルドダウン」の話はこちらに出ています。他のクラブの戦術も網羅出来るのでオススメです。↓ 


 

↓「ゾーンプレス」などこのブログ内でピンと来ない言葉があった方はこちらを持っておくことをオススメします。↓