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レビュー|起死回生の前半戦 2023シーズン(第6-17節まで)【横浜FC】

2023シーズンが開幕から早くも折り返し地点の第17節までが終了。

(試合数こそ違うチームが残るも)横浜FCは現在、勝点13で16位(3勝4分10敗)。一時は定位置になっていた最下位を脱してリーグ前半を終えることに

開幕から未勝利が長く続き膨らんだ勝点の負債を、直近の数試合で勝点を急いで積み上げ完済に成功した。

良いチーム状態でこれからシーズンの後半戦へ入っていくわけだが、試合の内容として勝ち点の拾い方に自信が出てきたこと、今季は降格枠が1つであることを考えても、残留の希望は大いにあるはずだ。

 

リーグ序盤の大惨事を考えれば、直近は非常に良い試合を続けている。得点力は依然として物足りないが、今のチームには"J1屈指の堅守"という特徴が芽生え、失点数が大きく減ることでコンスタントに勝点を積み上げることができるようになった。

その堅守の要因は周知の通り、システムの変更に他ならないだろう。開幕から敷いていた4-2-3-1から、昨季主軸にしていた3-4-2-1へ変更したのが第11節。そこで初勝利を上げると、現在まで2戦に1勝ペースと大きく生まれ変わりに成功している。

なぜシステムの変更がそれほど安直に守備の向上へ繋がったのか。今回は守備に絞って簡単に考察していきたい。

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まず大前提として、開幕から選手たちのインテンシティは試合を追うごとに確実に向上を続けてきた。システム変更前も着々と修正を重ねていき、良い内容を見せる試合も多く、J1復帰一年目とはいえ、結果ほど選手の個のレベルで他のJ1チームに大きく劣ることはなかった印象だ。

しかし失点が減らないことで結果へ繋げる事がなかなかできずにいた。

システム変更により様々な相性が戦術と噛み合い、チグハグが解消されたことで、失点が減り、すぐに結果が出るチームへ一転した。

1.選手層

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4-2-3-1と3-4-2-1で戦術としての機能にそれほどの優劣は無く、以前の4-2-3-1にも現在の3-4-2-1にも課題はあるのだが、システムの抱える問題・課題と、現在の主力選手のストロングとがピッタリとハマることで戦術として成立したのが3-4-2-1だったと考えている。

3-4-2-1の課題とソリューションのセットを大きなところで二つ例を挙げると

課題①: シャドーに求められる無理な守備タスク

4-2-3-1の時と比較して、現在の3-4-2-1ではシャドーが相手のCBとSBの両方を消さなくてはいけない場面が多い。相手のビルドアップ時はまさに犬のようにボールを素早く追う必要が常に出てくる。それでいてシャドーがプレスバックをサボる・間違えれば、すぐに数的優位性を相手に作られゴールへ簡単に迫れてしまう泣きのポジション高い機動力と、攻撃的な選手には余る守備力がマストになる。

だがあくまで攻撃的なポジション、攻撃時に相手を崩すための足元の技術も同時に要求される

→泣きのポジションと言ったが、現状はほぼ完璧に課題①のタスクをこなしている。上記課題の通りシャドーのスピードありきの守り方であるため、序列で山下が頭一つ抜けているが、山下以外にも同様の特徴を持つ選手が今のチームには多く、現在の横浜FCが持つ選手層の強み・厚みと課題①を解決する方法が一致している

比較して4-2-3-1はピッチ上に人を満遍なく配置できるため攻守で穴が少ないメリットこそあるが、かえってスペースが減って自選手の強みである機動力を潰すことに。狭いスペースでのプレーを得意とする選手には良いシステムなのだが、チームにそういったタイプの攻撃の選手が少なく、限定された選手層から無理に選んだメンバーで挑むため、無理がたたって大きなミスや、試合後半の息切れに繋がっていた。

課題②: エリア内被チャンス数の多さ

シャドーが常に犬のように走り回り、WBとボランチが最適にカバーを続けることで、機会を減らすことこそできても、やはり相手がサイドに人数を集めてくれば必然的にSBなどを中心に相手に浮いた選手がどうしても出来てしまう(相手は陣形を崩しているため、逆にウチはカウンターのチャンスでもあるのだが…)。

フリーの選手ができれば、質の高いクロス、短いパスを使った連携でエリア内に侵入するなど確実にゴールへ迫ってくるのがJ1。そうなれば、中(ゴール前)での勝負になってしまい、常に危険(局面で負ければ即失点)と隣り合わせで守り・戦い続けなくてはいけない

→今も上記の現象は変わらず起きているが、結論としては、今の3CB+GKを中心とした選手たちが中での勝負に勝ち続け、ひたすら弾き返して弾き返して弾き返しているのが現状だ。

サイドからの攻撃はもちろん、中央からの縦突破にもうまくチャレンジしながら弾き返している。やってできるなら全チームがそうしているし、本来なかなかできることではないのだが、今のウチはそれができている。選手の特性に依存した上で成り立っているが、サッカーとは戦術ばかりの頭でっかちでも良くない。時には属人化も重要で、対人守備(デュエル)に集中することで圧倒的にパフォーマンスを引き出せる選手がチームに多く揃っているなら、戦術の根幹・前提に使うのも有効かもしれない。

"外はある程度捨てて中で勝負"、リスクは高いが今の最終ラインのユニットなら成立する立派な戦術守備時3バック(5バック)のため、中は常に数的優位性を築けているのも大きい。

相手SBなどが浮いてしまう3-4-2-1における守備の必然を危機に感じた昨季の四方さんは、おそらくこの問題を解消したくオフから4-2-3-1に取り組んでいたのだと私は予測をしている。中での勝負ではなく外での勝負に本来は持っていきたかった。比較して、4-2-3-1になれば先に述べたように満遍なくピッチに選手が配置されるため、最適にカバーを続ければ、エリア内に侵入させる前にボールを奪える・侵入を防ぐことができると考え、事実それが定量的に形として見られる時間もあった。

しかしこの思惑はとにかく成立しなかった。4-2-3-1の場合、結局どのエリアも数的不利は回避できるが、数的優位性を築くことも出来なかったのが一つの要因で、特にSBにデュエルで安定して勝ち続けられる守備力の高い選手を多く揃えられていないウチはサイドの1対1で相手に局面を突破され、その綻びが元で一つずつズレていき最後ゴール前で相手の選手をフリーにしてしまうことも多かった

またボールを奪った後にも問題があった。せっかく奪っても4-2-3-1の場合は、相手もウチの守備陣系に合わせて満遍なくピッチに広がっていることが多く、広いスペースはなかなか無い状態。狭いスペースで繋ぐのが得意な選手が揃っていれば相手陣形のズレを突いてむしろ攻撃の起点になるのだが、ウチはどちらかいえば苦手な選手が多く、奪ったあと繋ぎでミスが起きて、即座に奪い返された流れのまま相手に得点機を作られるパターンに陥ってしまっていた。

比較して3-4-2-1の場合は、中央の低めに人が集まっているため、サイドや前線のどこかに常に大きなスペースが空いていて、ボールを奪った後はスペースを活用した攻撃に移り、鋭いカウンターの起点になっている前線にオフザボール、最終ラインにロングフィードの得意な選手が揃っているウチにはこちらの攻め方がマッチしていた。良い攻撃が多く生まれることで、結果的に守備を良い守備として成立させている。

"良い攻撃は良い守備から"。"守備は攻撃の準備"。

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戦術の穴を選手たちのストロングで補えず成立しなかったシステムが4-2-3-1選手たちの特徴に依存することで成立したのが3-4-2-1と、まとめることができるのかもしれない。

守備は"中で勝負"なんて怖くてとても長いリーグ戦で強行できる守備戦術ではないが、ウチにはスペシャルなGKブロがいる。開幕時の主役は間違いなく小川航基で、彼のために戦術が組まれていたが、今の主役はブロだと考えている。セービング含めたブロの圧倒的なプレー強度を守備戦術の前提に、彼と抜群の相性を見せる岩武を中心に配置、岩武の弱点を補うべく吉野とモラエスを、と順に配置されていると考えると腑に落ちる。

2.ストライカーのトレンド

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「1.選手層と戦術の相性」で述べた通りウチは今、ある程度外を捨て中央低めに人を多く配置して守るスタイル。ゴール前、常に数的優位あるいは同数で相手の攻撃を受け、弾き返している。あくまでブロを筆頭に個の優位性で相手と同等かそれに近いため、数で勝ることで試合を通して相手を抑えることに成功している。

つまり、ゴール前数的同数以上の状況で、個の優位性で大きく相手アタッカーに上回られると、失点してしまうリスクを背負ったまま守り続けている。分かりやすい例を出すと、ペナ内にDF二人を背負ったままゴールを決められる、ペナ内DF二人に囲まれてもドリブル突破からゴールを決められる、そんなアタッカーが相手にいる状況では、数的優位性も無意味になり先に述べた守備戦術は成り立たない。だからこそ攻防戦で負ければ即失点の中(ゴール付近)ではなく、そもそも外で勝負して、中へ良い形でボールを入れさせない守り方を取るチームが多くなっている。

だが妙なのだが、現在のJ1リーグはJ2以上に、圧倒的なフィジカルを武器に中でDFとがっぷり四つで勝負するタイプのアタッカーが実は少ない。常に細かく動き直し、ポジショニングや駆け引きが非常に上手く、DFを剥がし陣形の隙を突くタイプや、DF裏のスペースを使うスピードタイプなど、フリーになるのが非常に上手く決定力に優れた特徴を持つ選手が多い

人数をかけてエリア付近のスペースを消し、相手のアタッカーにマンツーマン気味につき、フリーにさせないことに特別注力すれば、得点に繋がるプレーを潰しやすい傾向にある

現在の3CB+ブロの最終ラインを相手に数的優位性をひっくり返すほどの個の優位性を持つ選手ともなれば僅かなアタッカーしかリーグ内にはいない可能性も(それほどまでにウチの最終ラインの個の優位性が高いと言えるかもしれないが)。

本来、よーいどんで中にボールをガンガン入れられ続けて守り切るというのは難しいはずだが、今の守備戦術で勝ち点を拾えているのはリーグ全体のトレンドとの相性も大きいと考えている。

逆に、大迫などに個の優位性を存分に発揮される展開になると、なかなか厳しい試合になりやすい傾向は今後の試合でも予想される。

3.監督

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四方さんが4-2-3-1を志向したのは、何もポゼッションサッカーへのロマンだけが理由でなく、「1.選手層と戦術の相性」でも述べた3-4-2-1の守備の弱点を改善したい意図もあったが、4-2-3-1移行後も考えていたような守備の向上は結局得られず、かえって攻撃の無策さを晒すことになってしまった。攻撃面における頼みの綱のハッチンソン氏も最後まで機能せず、最終的には10節を持って切り替え、四方さんは昨季機能した3-4-2-1へシフトすることを英断した。

無策というのは事前の準備ということではなく、試合中に起きる事象へのアドリブ・対策対応などの采配をここでは指している。

10節以前に頻発していたケースを挙げると、用意してきた形が試合開始からある程度うまくいく→相手がやり方を変えてくる→守備はすぐに対応することも多いが、攻撃で効果的な手を打てないまま後手に周る→まずは攻撃から潰されてしまう。4-2-3-1は攻守のバランスが高いため、攻撃が詰めば守備も吊られて詰む。相手が気持ちよくボールを奪い理想的な形で攻撃へ入り崩し切るためウチの守備が崩壊したように映ることも多かった

比較して、3-2-4-1は大きく守備に寄ったシステム。まず守備策が常に最適であれば失点を防げる。途中で相手がやり方を変えてくるのに対して、交代など効果的な手を適宜打ち堅守を維持しているように毎試合映っている。

かけられる人数が減るなど、攻撃の難易度はますます高くなったためそこは課題だが、守備が堅い分、何とか崩そうと相手が前のめりになる傾向も強く、かえってカウンターはより刺さりやすくなっている印象だ。(システム変更に伴う戦術変更の副作用として、有力な攻め手がポゼッションからカウンターへ移行していて、前線とWBの選手の入れ替えが激しくなっている)

四方さんは以前から攻撃に対して無策な傾向が元々強く、逆に守備の細部をアドリブ的に詰めるのが上手い特徴があるため、それがシステムの持つ攻守のバランスにマッチしたことが昨季や直近の結果に出ていると考えられる。

四方さんはやはり守備の名将。本人もクラブもサポもリーグも再確認する5月となった。

おわりに

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リーグ後半戦に向けて、堅守という残留争いの足掛かりはできた。毎試合良い守り方ができていて、今の路線を軸にマイナーチェンジで今後もブラッシュアップの問題はないだろう。

選手層の不安は各ポジション大なり小なり残っているため、夏の移籍は注視したい。個人的には、特にボランチのララ井上が不動なものになりつつあるため、交代で勢いを失わないため、また競争を激しくするためにも補強ポイントと考えている。

あとは攻撃のところ。守備が整理されたことで良い奪い方から得点に繋がりそうなシーンも増えてきたが、それだけに、明らかなチャンスを自らふいにしてしまう場面も多くなっている。勝ち越し点もスーパーなゴールが多く、再現性はまだまだ低い。

より安定的に毎試合得点を量産するには、攻撃のユニット構築がまずは必要になってくる。昨季の「小川翔」や「長谷川小川ライン」などのユニットを今後見つけていけるかに期待したい。